転生したのに0レベル
〜チートがもらえなかったので、のんびり暮らします〜


85 大人では中々気が付かない事



 一生懸命話したんだけど、聞いていたロルフさんとバーリマンさんの方を見るとなんか口を開けて唖然とした顔をしてるんだよね。
 もう! 何でそんな顔してるかなぁ! 僕がこんなに頑張って話してるって言うのに!

「ロルフさん、バーリマンさん、聞いてるの!」

「うっうむ。聞いておるぞ。ただ、ルディーン君の発想が斬新過ぎてのぉ」

「ええ、本当にそんな事ができるのかと、私もロルフさんも驚いてしまったのよ」

 えっ、そうなの? そんなにびっくりするような話だったかなぁ? 一つの電池に何本か電線を通して豆電球やモーターを同時に動かすのと同じような事なんだから、それ程難しい話でも無いと思うんだけど。
 前世の世界では小学校の理科の実験でもやってそうなくらい簡単なことなのに。

「それで、その魔石から複数の線で魔力を取ると言うのは、具体的にどうやるのじゃ?」

「えっとねぇ、口で言うより実際に魔道回路図を書いた方が解りやすいかな?」

「おお、確かにそうじゃ。そうすればルディーン君が言っている事が本当に出来るのか、一目で解るからのぉ」

 あれ? 僕はインクで回路図を書くだけのつもりだったなのに、その言い方だと魔道リキッドを使って本当に魔道回路図を書くって事? それは別にいいけど、でも動力源の魔石や動かす道具が無いと実際に流れるのか解んないんじゃないかなぁ。
 それをロルフさんに話すと、

「そこは問題ない。魔石ならこれこの通り、幾つかあるから使ってもらっても構わんよ。それにこの話題になった原因である飴菓子製造機と同じように、一つは回転でもう一つは加熱と言う単純な構造なら作るのはそれ程難しくはあるまい。ルディーン君もこの魔道具を作ったのなら、材料さえあればクリエイト魔法で作れるのじゃろう?」

 そう言ってカウンターの下から小さめの魔石を幾つかと、簡単な道具が作れる程度の材料を取り出したんだ。

 うん、これだけあれば大丈夫だね。
 と言う訳で僕は、実際に簡単な魔道具をロルフさんたちの前で作る事にしたんだ。

「じゃあまずは魔道回路図を書いちゃうね。とりあえずここに燃料になる魔石を置く魔法陣を書いてっと、そこから魔力が循環する輪っかの根元になる線を引いてっと、ここまではいつもと同じだよ。でも違うのは次。これとは別にもう一つ、循環する輪っかをもう一つこの魔法陣から引くんだ」

「そんな単純な事で、魔力分割はできるのかの? 回路を二つ繋ぐ事によって流れが阻害されたりはせぬのか?」

「うん。この魔石を置く魔法陣の魔力記号は魔石から魔力を取り出すだけのものだから、さっき言った水のタンクと同じなんだ。だから魔石の強ささえ足りてるなら、そこに魔道回路図の線をつなげば魔道具は動くはずだよ」

 これは魔道具作成の本に書かれていた魔力記号の説明にそう書いてあったから間違いない。
 何より、魔法陣の魔力記号のどこから線を引いても魔力が流れると言う事がその証明だと思うんだよね。

「で、後はそれぞれスイッチや強さを変えるための抵抗の魔道記号を書いてっと。ロルフさん、魔石と材料を頂戴」

「うむ」

 まず魔石に火の属性を纏わせ、それから材料を使って雲のお菓子を作る魔道具の中心部の模型のようなものを作った。
 これはあくまで実験用だから缶に穴も開いて無いし、雲のお菓子が飛び散らないようにつけてある傘もなし、本当に簡単な模型だ。
 そしてそこに、それぞれ回転と熱を発生させる魔道回路図をつないでっと。
 今回は実験だから回路図の定着をする必要も無いし、これで完成だね。

「回路図に問題は無いかなっと。うん大丈夫。これでこの魔石を置いてスイッチを入れれば回転と熱を持つって言う、雲のお菓子を作る魔道具と同じ事ができるはずだよ」

「ほう、では早速実験してもらえるか?」

「うん!」

 僕はロルフさんにそう返事をすると、さっき作った火属性魔石を魔力回路の魔法陣の上に置く。
 そしてまず熱を持つ魔道回路のスイッチを入れた。

 今回はあくまで模型だから魔石も小さいと言う事でお砂糖が溶けるほど熱くはならないけど、手を近づければほんのりとあったかくなっているのが解る。
 と言う訳でもう一つの魔道回路、回転のスイッチを入れてみた。

 すると。

「おお、本当に回ったぞ!」

 小さな魔石を使ったからゆっくりとではあるけど缶が回りだし、無事雲のお菓子製造機と同じ効果のある魔道具を作り出すことができたんだ。


「なんとまぁ。まさかこんなに簡単な事で複数の魔道具を一つの魔石で動かせたなんて。しかし、これが解った事によって、魔道具製作の幅は大きく広がるでしょうね」

「そうじゃな。そして何より、この方法でなら先ほどの飴菓子を作る魔道具も露天市で店を出す者たちが買える程度の値で売れると言うことじゃな」 

「そうですよね。ロルフさん、ならこれも」

「うむ。これも特許を取得させるべきじゃろう」

 ちゃんと成功してよかったなんて考えてたら、ロルフさんとバーリマンさんがそんな事を言い出したんだ。
 でもなんで? これってポーションじゃないし、ちょっと変わってはいるけどさっきロルフさんが言った通りただの飴だよ。
 それともお菓子にも特許ってのがあるのかなぁ? そう思った僕は素直に、何でって聞いてみたんだ。

「いいえ、錬金術ギルドでの特許を取得するのは雲のお菓子ではなく、それを作る魔道具の方よ」

 なんと、どうやら特許の話が出てたのは魔道具の方なんだって。
 でもこれて僕が考えたもんじゃ無いし、そんなものを僕が特許をとっていいとは思えなかったんだ。
 だから断ろうとしたんだけど、二人からはどうしてもって言われちゃったんだ。

「ルディーン君。わしの孫は美味しいものに目が無くてのぉ、常にうまい物を求めて色々な町を渡り歩いておる。そのおかげでわしも色々な変わった菓子を口にしてきたが、この様な飴菓子を口にしたのは今日が初めてなんじゃ。そしてこの飴菓子は孫が見つけてきた数多の菓子に勝るとも劣らぬうまさを持っておる。こんな菓子を誰でも作れるとなれば、その魔道具を欲するものも多かろうて」

「そうよ。ここでもしこの飴菓子を作る魔道具を特許に載せなければ、ルディーン君の周りでしかこのお菓子は食べられないって事になるでしょ? 世の中には甘いお菓子が大好きな人たちがいっぱいいるんですもの。その人たちにも届けてあげなきゃいけないと思わない?」

 特許と言うものに載っけると、お金さえ払えば誰でもその魔道具を作ったりできるようになるんだって。
 でもここでもし僕が断っちゃったら、みんな食べられないから載せるべきだって言うんだ。

「そっか、じゃあ載せないとダメだね。解った! 雲のお菓子を作る魔道具の作り方、特許って言うのに載せていいよ」

「おお、ありがとう! ルディーン君」

 こうして僕がこの世界に持ち込んだくものお菓子製造機が世に出る事になったんだ。
 そしてもう一つ。

「あとね、ルディーン君。この魔道回路の書き方も一緒に特許に載せてもいいかしら?」

「一つの魔石から何個かの魔道具に魔力が取れる奴? いいけど、何で? だってこれ、ちゃんと魔道具を作る本に書いてある回路記号の説明を読めば解ることだよ」

 別にそんな事しなくても、ちょっと考えれば解る事なんだから載っける必要は無いんじゃ無いかなぁ? って僕は考えたんだけど、バーリマンさんは違った意見みたい。

「いいえ、それはルディーン君みたいに頭が柔軟な子供だから気が付いた事だと思うのよ。でもね、大人と言うのは今までの常識に捕らわれているから、目の前に答えが書いてあっても中々それに気がつけないの」

「うむ。この魔道回路図の書式もそうじゃが、それ以前にルディーン君が持ち込んだ飴細工を作る魔道具を見て、一つの魔道具に二つの魔石を使っている事にさえ、わしもギルドマスターも驚いたじゃろう。大人と言うのはな、こうして誰かに教えてもらわねば気付けぬ事も多いのじゃ」

 僕はこんなの誰でも思いつくじゃないかって思ってたけど、大人も大変なんだなぁ。
 でもそう言う事なら載せた方がいいよね、だってみんなの為になるんだもん。

「うん解った。じゃあこれも特許とか言うのに載っけてもいいよ。あと、ついでに一つの魔道具に二つ以上の魔石を付けるのもね」

「ありがとう、ルディーン君。これでみんな助かると思うわ」

 そう言って笑うバーリマンさんの顔を見て、

 「うん、みんなのためだもんね!」

 僕も思わず笑顔になったんだ。 


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